「問答二三」:立ち読み図書館|著作権切れ文芸作品集

« 「ネルソン伝に序す」 | 立ち読み図書館|著作権切れ文芸作品集トップページ | 「あの世から便りをする話」 »

「問答二三」

立ち読み図書館|著作権切れ文芸作品集は、作者の死後50年を経て著作権の消滅した文芸作品と、著作権者が「タダで読んでもらってかまわない」と判断したものを掲載しています。本・文庫・新書・単行本・小説・エッセイ・未出版物・既出版物など。


---(作品ここから)----------------------

-------------------------------------------------------
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)客《かく》あり

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)者|多《おほ》し

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)全然《ぜん/\》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#「足下は日本の基督教は今より何年を期して復興すると考へらるゝや」に白丸傍点]
-------------------------------------------------------

 客《かく》あり余《よ》に問《と》ふに左《さ》の二三の事項《じこう》を以てせり、而《しか》して余《よ》は爾《し》か答《こた》へぬ。
 問、足下は日本の基督教は今より何年を期《き》して復興すると考《かんが》へらるゝや[#「足下は日本の基督教は今より何年を期して復興すると考へらるゝや」に白丸傍点]。
 答、教会《けうくわい》は草木《さうもく》又《また》は動物《どうぶつ》の如き自然物《しぜんぶつ》にあらず、草木は時期《じき》を定《さだ》めて花《はな》を有《も》ち菓《み》を結《むす》び、小児《せうに》は或《あ》る時期《じき》を経過《けいくわ》すれば成人《せいじん》して智力《ちりよく》の啓発《けいはつ》に至るべし、然《しか》れども教会《けうくわい》は人為的《じんゐてき》なり、復興《ふくこう》せんと欲《ほつ》せば明日《めうにち》、今日《こんにち》、之《これ》を復興《ふくこう》するを得《う》べし、而して其《その》復興《ふくこう》の方《はう》たるや、安楽椅子《あんらくいす》に倚《よ》り罹《かゝ》り、或は柔軟《じうなん》なる膝褥《しつぢよく》の上《うへ》に跪《ひざまづ》き如何程《いかほど》祈祷《きたう》叫号《きうごう》するも無益《むえき》なり、暑《しよ》を山上に避《さ》けながら眼下《がんか》に群住《ぐんぢう》する憐《あは》れなる数万の異教徒《ゐけうと》の為《た》めに祈願《きぐわん》を込《こ》めるも無益《むえき》なり、教会《けうくわい》復興《ふくこう》の方策《はうさく》とは教導師《けうだうし》先《ま》づ躬《みづ》から身《み》を捐《す》つるにあり、彼《か》の家族《かぞく》の安楽《あんらく》を犠牲《ぎせい》に供《きやう》するにあり、若《も》しミツシヨンより金を貰《もら》ふ事《こと》が精神上《せいしんじやう》彼《かれ》と彼《かれ》の教会《けうくわい》の上に害《がい》ありと信《しん》ずれば直《たゞち》に之を絶《た》つにあり、我れ饑《う》ゆるとも可なり、我の妻子《さいし》にして路頭《ろとう》に迷《まよ》ふに至るも我は忍《しの》ばん、真理《しんり》は我と我の家族《かぞく》より大なり、此《この》決心《けつしん》を実行《じつこう》あらん乎《か》、教会《けうくわい》は直《たゞち》に復興《ふくこう》し始《はじ》むべし、是《こ》れなからん乎、復興は世《よ》の終《おはり》まで待《ま》つも来《きた》らざるべし。
 問、足下《そくか》は尚ほ何時迄《いつまで》も著述《ちよじゆつ》に従事《じうじ》せ[#「ら」が脱]れんとする乎[#「足下は尚ほ何時迄も著述に従事せれんとする乎」に白丸傍点](基督《きりすと》信徒《しんと》に他人の仕事《しごと》を気《き》にする者|多《おほ》し)。
 答、余《よ》は基督《きりすと》の兵卒《へいそつ》なり、兵卒は其時《そのとき》の来《きた》る迄《まで》は何《なに》をなすべきかを知らず、主《しゆ》の命《めい》ならん乎、余《よ》は高壇《かうだん》に立《た》つ事もあるべし、官海《くわんかい》に身《み》を投《たう》ずるやも計《はか》られず、基督信者は目的《もくてき》なき者なり、自《みづ》から一の目的《もくてき》を定《さだ》め、万障《ばんしやう》を排《はい》し、終生《しうせい》一|徹《てつ》其《その》目的点《もくてきてん》に達《たつ》せんと勉《つと》むるが如きは余《よ》の不信仰《ふしんこう》時代《じだい》の行為《こうゐ》なりき、主《しゆ》の命《めい》維《こ》れ徇《したが》ひ、今日《こんにち》は今日《こんにち》の業《げふ》を成《な》す、是《こ》れ余《よ》の今日《こんにち》の生涯《しやうがい》なり、余に計画《けいくわく》なる者あることなし、何と愍《あはれ》むべき(羨むべき)生涯《しやうがい》ならずや。
 問、他人《たにん》に道《みち》を説くに如何《いか》なる方法《はうはふ》を採《と》るべきや[#「他人に道を説くに如何なる方法を採るべきや」に白丸傍点]。
 答、余《よ》は曾《かつ》て如此《かくのごと》き事を試《こゝろ》みし事なし、否《い》な試《こゝろ》みて其《その》甚《はなは》だ馬鹿気《ばかげ》切《きつ》たる事を認《みと》めたれば全然《ぜん/\》之を放棄《はうき》せり、道《みち》を行《おこな》ふ事《こと》是《こ》れ道《みち》を説《と》く事なり、殊更《ことさら》に勉《つと》めて他人《たにん》を教化《けうくわ》せんとするが如きは是《これ》を為す者の僣越《せんえつ》を示《しめ》し、無智無謀《むちむぼう》を証《しよう》す、余《よ》は知《し》る大陽は勉《つと》めて輝《かゞや》かざるを、星《ほし》は吾人の教化《けうくわ》を計《はかつ》て光《ひかり》を放《はな》たず、光《ひ》からざるを得《え》ざれば光《ひか》るなり、我《わ》れ主《しゆ》に倚《よ》り、主《しゆ》我《わ》れに宿《やど》る時《とき》は我は勉《つと》めずして光を放《はな》つなり、而して世《よ》は我《われ》より出る主《しゆ》の光《ひかり》を見《み》て我《われ》を信《しん》ぜずして主《しゆ》を信《しん》ずるに至《いた》る、是《こ》れ余《よ》の信《しん》ずる基督教的《きりすとけうてき》伝道《でんだう》なる者なり。
 客《かく》又《また》問《と》はず、余《よ》を辞《じ》して去《さ》る。

底本:「内村鑑三全集3 1894-1896」岩波書店
   1982(昭和57)年12月20日発行
底本の親本:「福音新報」59号、署名(内村鑑三)
   1896(明治29)年8月14日発行

キーワードでサイト内を検索

上村 松園 (8件)
「画学校時代」 「旧作」 「九龍虫」 「砂書きの老人」 「母への追慕」 「眉の記」 「無題抄」 「友人」
上田 敏 (2件)
「海潮音」 「『新訳源氏物語』初版の序」
丘 丘十郎 (5件)
「科学が臍を曲げた話」 「空気男」 「雪魔」 「地球発狂事件」 「ヒルミ夫人の冷蔵鞄」
井上 紅梅 (9件)
「阿Q正伝(魯迅)」 「明日(魯迅)」 「狂人日記(魯迅)」 「薬(魯迅)」 「孔乙己(魯迅)」 「幸福な家庭(魯迅)」 「故郷(魯迅)」 「端午節(魯迅)」 「村芝居(魯迅)」
今井 邦子 (1件)
「水野仙子さんの思ひ出」
伊丹 万作 (1件)
「顔の美について」
伊東 静雄 (2件)
「詩集夏花」 「わがひとに与ふる哀歌」
伊藤 左千夫 (7件)
「水害雑録」 「水害雑録」 「奈々子」 「野菊の墓」 「浜菊」 「姪子」 「守の家」
伊藤 野枝 (6件)
「ある男の堕落」 「出奔」 「 成長が生んだ私の恋愛破綻 」 「転機」 「「別居」について」 「わがまま」
内村 鑑三 (9件)
「寡婦の除夜」 「寒中の木の芽」 「後世への最大遺物」 「時事雑評二三」 「聖書の読方」 「楽しき生涯」 「デンマルク国の話」 「ネルソン伝に序す」 「問答二三」
内田 魯庵 (9件)
「為文学者経」 「温情の裕かな夏目さん」 「灰燼十万巻(丸善炎上の記)」 「家庭の読書室」 「駆逐されんとする文人」 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」 「人相見」 「貧書生」 「文明国には必ず智識ある高等遊民あり」
大手拓次 (1件)
「蛇の花嫁」
大杉 栄 (11件)
「鎖工場」 「獄中記」 「獄中消息」 「生の拡充」 「征服の事実」 「続獄中記」 「男女関係について」 「奴隷根性論」 「日本脱出記」 「遺言」 「藍色の蟇」
大槻 文彦 (1件)
「ことばのうみのおくがき」
大町 桂月 (1件)
「月譜」
大阪 圭吉 (6件)
「カンカン虫殺人事件」 「香水紳士」 「デパートの絞刑吏」 「灯台鬼」 「花束の虫」 「幽霊妻」
尾形 亀之助 (2件)
「雨になる朝」 「色ガラスの街」
岡本 かの子 (69件)
「愛」 「愛よ愛」 「秋雨の追憶」 「秋の七草に添へて」 「秋の夜がたり」 「汗」 「或る男の恋文書式」 「ある男の死」 「異国食餌抄」 「異性に対する感覚を洗練せよ」 「一平氏に」 「上田秋成の晩年」 「英国メーデーの記」 「岡本一平論」 「雛妓」 「良人教育十四種」 「男心とはかうしたもの」 「朧」 「愚なる(?!)母の散文詩」 「過去世」 「風邪と裾―何人か良案はないか?―」 「 家庭愛増進術 」 「かの女の朝」 「家霊」 「川」 「河明かり」 「狂童女の恋」 「金魚撩乱」 「現代若き女性気質集」 「蝙蝠」 「五月の朝の花」 「小町の芍薬」 「桜」 「山茶花」 「時代色」 「慈悲」 「小学生のとき与へられた教訓」 「初夏に座す」 「食魔」 「処女時代の追憶」 「女性崇拝」 「女性と庭」 「女性の不平とよろこび」 「新時代女性問答」 「新茶」 「鮨」 「雑煮」 「ダミア」 「縮緬のこころ」 「蔦の門」 「鶴は病みき」 「東海道五十三次」 「夏の夜の夢」 「売春婦リゼット」 「花は勁し」 「巴里祭」 「巴里の秋」 「巴里のむす子へ」 「病房にたわむ花」 「富士」 「母子慕情」 「みちのく」 「桃のある風景」 「雪」 「鯉魚」 「恋愛といふもの」 「老妓抄」 「老主の一時期」 「私の書に就ての追憶」
岡本 一平 (1件)
「非凡人と凡人の遺書」
岩波 茂雄 (1件)
「読書子に寄す」
岩野 泡鳴 (5件)
「塩原日記」 「神秘的半獣主義」 「戦話」 「耽溺」 「日高十勝の記憶」
巌谷 小波 (2件)
「こがね丸」 「三角と四角」
市島 春城 (1件)
「読書八境」
有島 武郎 (7件)
「An Incident」 「生まれいずる悩み」 「運命と人」 「描かれた花」 「惜みなく愛は奪う」 「溺れかけた兄妹」 「カインの末裔」
板倉 勝宣 (4件)
「五色温泉スキー日記」 「春の上河内へ」 「春の槍から帰って」 「山と雪の日記」
池宮城 積宝 (1件)
「奥間巡査」
池田 菊苗 (1件)
「味の素」発明の動機
池谷 信三郎 (1件)
「橋」
泉 鏡太郎 (2件)
「人魚の祠」 「蛇くひ」
泉 鏡花 (25件)
「愛と婚姻」 「芥川竜之介氏を弔ふ」 「紫陽花」 「遺稿」 「いろ扱ひ」 「歌行燈」 「絵本の春」 「縁結び」 「お花見雜感」 「女客」 「怨霊借用」 「海城発電」 「凱旋祭」 「貝の穴に河童の居る事」 「神楽坂七不思議」 「義血侠血」 「木の子説法」 「城崎を憶ふ」 「草あやめ」 「草迷宮」 「国貞えがく」 「外科室」 「化鳥」 「月令十二態」 「紅玉」
海野 十三 (11件)
「あの世から便りをする話」 「ある宇宙塵の秘密」 「烏啼天駆シリーズ・4 暗号の役割」 「暗号音盤事件」 「生きている腸」 「宇宙女囚第一号」 「宇宙戦隊」 「宇宙尖兵」 「宇宙の迷子」 「 海野十三氏の弁 」 「海野十三敗戦日記」
淡島 寒月 (12件)
「江戸か東京か」 「江戸の玩具」 「活動写真」 「銀座は昔からハイカラな所」 「寺内の奇人団」 「諸国の玩具」 「凧の話」 「土俗玩具の話」 「亡び行く江戸趣味」 「梵雲庵漫録」 「明治十年前後」 「我が宗教観」
生田 春月 (1件)
聖書
石原 莞爾 (2件)
「最終戦争論・戦争史大観 (第一章)」 「最終戦争論・戦争史大観 (第二・三章)」
石川 啄木 (22件)
「足跡」 「石川啄木詩集」 「一握の砂」 「一利己主義者と友人との対話」 「火星の芝居」 「悲しき玩具」 「菊地君」 「雲は天才である」 「氷屋の旗」 「札幌」 「時代閉塞の現状(強権、純粋自然主義の最後および明日の考察)」 「赤痢」 「性急な思想」 「雪中行 小樽より釧路まで」 「葬列」 「葉書」 「初めて見たる小樽」 「病院の窓」 「漂白」 「天鵞絨」 「二筋の血」 「弓町より」
石橋 忍月 (2件)
「罪過論」 「舞姫」
石田 孫太郎 (1件)
「猫と色の嗜好」
芥川龍之介 (20件)
「秋」 「芥川龍之介歌集」 「アグニの神」 「アグニの神」新字旧仮名 「浅草公園」 「兄貴のような心持」 「あの頃の自分の事」 「あばばばば」 「鴉片」 「或阿呆の一生」 「或敵打の話」 「或旧友へ送る手記」 「或日の大石内蔵助」 「或恋愛小説(恋愛は至上なり)」 「闇中問答」 「一夕話」 「糸女覚え書」 「犬と笛」 「芋粥」 「岩野泡鳴氏」
阿部 徳蔵 (1件)
「美術曲芸しん粉細工」